Case T01
40代後半,男性。左後頭部痛。
2日前に寝違えて,首が痛かったため,近くの整骨院に行き首のマッサージを受けた。
昨日より左後頭部痛を自覚,本日,ふらつき(右に傾く)など,さらに症状が悪化したため救急外来を受診した。
追加撮像は?
BPAS(Basi-parallel anatomical scanning)
● Doctor's Comment ●
【画像所見】
拡散強調像(A)で左小脳半球に急性期脳梗塞, MRA-MIP像(B)では,左椎骨動脈(V4遠位)の描出不良(▶)を認める。 T1強調像(C)で同部に明らかな所見は認められない。
現病歴およびルーチン撮像の画像所見にて脳動脈解離を疑い,BPAS(D)を追加撮像したところ,同部にふた瘤状の不整な紡錘状拡張(▶)が認められ,急性期の壁内血腫を伴う左椎骨動脈解離が強く疑われた。
後日の経過観察検査において,T1強調像で高信号を示す壁内血腫および血管外観の形態変化を認めたため解離が確定。
2か月後のMRI(E,F)では改善している。
【診断】 左小脳梗塞・左椎骨動脈解離
【脳動脈解離】[参考文献1)〜5)]
何らかの原因により脳動脈の内膜に損傷が生じ,内壁が出血し剥がれ,血液が壁内に流入し解離腔を生じるものである。 内壁が内腔に向かって膨隆すると血管を狭窄または閉塞させ,外方に向かって膨らむと瘤形成することになる。 また,前者を脳動脈解離,後者を解離性脳動脈瘤として区別することもあるが,厳密に区別することは困難であり両者を合わせて脳動脈解離と呼ぶ。
症状としては,頭痛・頸部痛,局所神経症状,さらに虚血性および出血性脳血管障害による症状を認める。 なかには無症候で偶然見つかる場合もある。その中でも頭痛や頸部痛は脳動脈解離の大きな特徴の一つである。 その頻度は,60~80%と報告されており,一般に内頸動脈系の場合は前頭部痛や前額部痛、椎骨脳底動脈系の場合は後頭部痛や後頸部痛を呈する。 成因としては,外傷・医原性・特発性と分類され,特発性の中には頸部回旋や過進展・圧迫などの軽微な外傷が誘因となって発症したと推測される症例が少なくない。
また、わが国における脳動脈解離の発症は、53%が虚血発症,28%が出血発症で両者が5%,その他が14%.脳卒中全体における脳動脈解離の占める割合は,50歳以下の若年郡で3.8%,51歳以上の非若年郡で0.4%.虚血性脳血管障害全体の脳動脈解離の割合は、1~2%程度であるが50歳以下では10~25%を占めており若・中年者の脳卒中の鑑別に重要である。
男性に多く,椎骨脳底動脈の解離が80~90%を占め,多発性も約10%に認める。
さらに脳動脈解離による虚血性脳血管障害の場合,その疑いを持って血管評価を行わない場合,診断が困難であることが往々にしてあり,全体の4%が原因であったとする報告もある。
拡散強調像(A)で左小脳半球に急性期脳梗塞, MRA-MIP像(B)では,左椎骨動脈(V4遠位)の描出不良(▶)を認める。 T1強調像(C)で同部に明らかな所見は認められない。
A 拡散強調像
B MRA-MIP像
C T1強調像
現病歴およびルーチン撮像の画像所見にて脳動脈解離を疑い,BPAS(D)を追加撮像したところ,同部にふた瘤状の不整な紡錘状拡張(▶)が認められ,急性期の壁内血腫を伴う左椎骨動脈解離が強く疑われた。
D BPAS
後日の経過観察検査において,T1強調像で高信号を示す壁内血腫および血管外観の形態変化を認めたため解離が確定。
2か月後のMRI(E,F)では改善している。
E MRA-MIP像(2か月後)
F BPAS(2か月後)
【診断】 左小脳梗塞・左椎骨動脈解離
【脳動脈解離】[参考文献1)〜5)]
何らかの原因により脳動脈の内膜に損傷が生じ,内壁が出血し剥がれ,血液が壁内に流入し解離腔を生じるものである。 内壁が内腔に向かって膨隆すると血管を狭窄または閉塞させ,外方に向かって膨らむと瘤形成することになる。 また,前者を脳動脈解離,後者を解離性脳動脈瘤として区別することもあるが,厳密に区別することは困難であり両者を合わせて脳動脈解離と呼ぶ。
症状としては,頭痛・頸部痛,局所神経症状,さらに虚血性および出血性脳血管障害による症状を認める。 なかには無症候で偶然見つかる場合もある。その中でも頭痛や頸部痛は脳動脈解離の大きな特徴の一つである。 その頻度は,60~80%と報告されており,一般に内頸動脈系の場合は前頭部痛や前額部痛、椎骨脳底動脈系の場合は後頭部痛や後頸部痛を呈する。 成因としては,外傷・医原性・特発性と分類され,特発性の中には頸部回旋や過進展・圧迫などの軽微な外傷が誘因となって発症したと推測される症例が少なくない。
また、わが国における脳動脈解離の発症は、53%が虚血発症,28%が出血発症で両者が5%,その他が14%.脳卒中全体における脳動脈解離の占める割合は,50歳以下の若年郡で3.8%,51歳以上の非若年郡で0.4%.虚血性脳血管障害全体の脳動脈解離の割合は、1~2%程度であるが50歳以下では10~25%を占めており若・中年者の脳卒中の鑑別に重要である。
男性に多く,椎骨脳底動脈の解離が80~90%を占め,多発性も約10%に認める。
さらに脳動脈解離による虚血性脳血管障害の場合,その疑いを持って血管評価を行わない場合,診断が困難であることが往々にしてあり,全体の4%が原因であったとする報告もある。
BPAS(Basi-parallel anatomical scanning)の撮像目的
Cisternographyの一種で椎骨・脳底動脈の外観を描出する方法である。
MRA(3D-TOF)は,血液の流入効果を利用して血管内腔を高信号として描出する方法だが,BPASは,Heavy-T2強調像撮像を行い,血管内腔および血管壁と脳脊髄液にコントラストをつけることで外観の描出が可能となる。 また,厚みのある冠状断撮像を行うことで,1枚の画像で全体の外観を一目で捉えることができ,血管形成の有無や走行評価,MRAと併せて見ることで,脳動脈解離の診断・経過観察に役立つ。
MRA(3D-TOF)は,血液の流入効果を利用して血管内腔を高信号として描出する方法だが,BPASは,Heavy-T2強調像撮像を行い,血管内腔および血管壁と脳脊髄液にコントラストをつけることで外観の描出が可能となる。 また,厚みのある冠状断撮像を行うことで,1枚の画像で全体の外観を一目で捉えることができ,血管形成の有無や走行評価,MRAと併せて見ることで,脳動脈解離の診断・経過観察に役立つ。
【右椎骨動脈解離(▶)】
MRA-MIP像
BPAS
BPAS
BPAS撮像の問題点と改善策
原法は,FSE法によるheavy-T2強調像を斜台に平行な角度で斜台後面から後方20mm程度のSingle Slice撮像であるが,FSE・SSFSE・VRFA-FSE・balanced
SSFP法などを用いて同様の撮像が可能であり,
この撮像断面設定では,椎骨・脳底動脈に屈曲・蛇行が強い症例ではスライスに入りきらず描出不良となることがある。
そのため,MRA画像を位置決め像に用いることで椎骨・脳底動脈がスライス外になることを回避できる。
また,斜台後面ー脳幹の距離(橋小脳槽)に個人差があるためスライス内に椎骨・脳底動脈と脳脊髄液だけではなく周囲組織が入り込みパーシャルボリューム効果の影響を受けて描出不良となることがある。 改善策として,評価したい血管に絞ったSlice厚設定・走行に合わせた断面設定が挙げられるが,これらの至適条件は症例毎で異なるため現実的な方法ではない。 そこで3D-BPAS撮像を紹介したい。
また,斜台後面ー脳幹の距離(橋小脳槽)に個人差があるためスライス内に椎骨・脳底動脈と脳脊髄液だけではなく周囲組織が入り込みパーシャルボリューム効果の影響を受けて描出不良となることがある。 改善策として,評価したい血管に絞ったSlice厚設定・走行に合わせた断面設定が挙げられるが,これらの至適条件は症例毎で異なるため現実的な方法ではない。 そこで3D-BPAS撮像を紹介したい。
橋小脳槽(小)
橋小脳槽(大)
屈曲・蛇行(+)
屈曲・蛇行(-)
●参考文献●
1)高嶋修太郎, 伊藤義彰・編: 必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版. 診断と治療社, p.367-375, 2017.
2)循環器病研究委託費18公-5 国立循環器病センター 内科脳血管部門, 峰松一夫・他編: 脳動脈解離診療の手引き-脳血管解離の病態と治療の開発.国立循環器センター内科脳血管部門, 2009.
3)山脇健盛: 脳動脈解離. 循環器内科 68: 398-408, 2010.
4)Schievink WI: Spontaneous dissection of the carotid and vertebral arteries. N Engl J Med 344: 898-906, 2001.
5)大石英則・編: 脳動脈瘤に対する血管内治療 知行合一. メジカルビュー社, p.244-257, 2017.
1)高嶋修太郎, 伊藤義彰・編: 必携 脳卒中ハンドブック 改訂第3版. 診断と治療社, p.367-375, 2017.
2)循環器病研究委託費18公-5 国立循環器病センター 内科脳血管部門, 峰松一夫・他編: 脳動脈解離診療の手引き-脳血管解離の病態と治療の開発.国立循環器センター内科脳血管部門, 2009.
3)山脇健盛: 脳動脈解離. 循環器内科 68: 398-408, 2010.
4)Schievink WI: Spontaneous dissection of the carotid and vertebral arteries. N Engl J Med 344: 898-906, 2001.
5)大石英則・編: 脳動脈瘤に対する血管内治療 知行合一. メジカルビュー社, p.244-257, 2017.
【出題・解説】
藤本 勝明(済生会富山病院 放射線技術科)
蔭山 昌成(済生会富山病院 放射線科)
藤本 勝明(済生会富山病院 放射線技術科)
蔭山 昌成(済生会富山病院 放射線科)