Case T06

50代後半,女性。意識消失。転倒外傷のためER受診。
既往歴:胆石,胆嚢炎

追加撮像は?

悪性腫瘍を疑い全身CTを施行


● Doctor's Comment ● 画像所見と診断

【頭部CT(図1)】
陳旧性の脳梗塞は認められるが,外傷に伴う出血などの所見はなし。

図1 CT



【頭部MRI(図2)】
血管支配領域に関係なく小脳および左右の大脳半球に多発脳梗塞巣を認める。

図2 MRI(上段:拡散強調像,中段:T2強調像,下段:MRA)



【胸腹部CT(図3)】
右卵巣に嚢胞性の腫瘤が認められますが充実部分が存在するようです。境界悪性から悪性の腫瘍が疑われます。
MRIで精査をお勧めします。

図3 胸腹部CT



【骨盤部MRI(図4)】
右卵巣に嚢胞性の腫瘤が認められます。充実成分が存在,嚢胞内には多発性の結節が存在します。 充実成分は拡散強調像(DWI)で高信号を示します。漿液性嚢胞腺癌もしくは漿液性境界悪性腫瘍が疑われます。

図4 骨盤部MRI(A:矢状断,B:冠状断,C:軸位断,D:拡散強調像)



● ポイント ●
・血行支配領域に関係ない多発脳梗塞を認めた場合,不整脈による心原性塞栓症もしくは悪性腫瘍を考慮する。
・悪性腫瘍ではD-dimer高値を示すことがある1)
・心電図に異常が認められない場合は全身CTやDWIBSなどにより全身検索が推奨される。

● Technical Comment ●

 Diffusion-weighted whole-body imaging with background body signal suppression(DWIBS)は,悪性腫瘍の検出や治療効果判定などに対する有用性が認知され,本邦において急速に普及している2)〜4)。 DWIBSはDWIによる全身撮像であり,担癌患者における遠隔転移検索,原発不明癌検索,悪性腫瘍における治療効果判定,スクリーニング検査などに有用である。 さらに,放射線被曝がない,注射の必要がない,時間的制約が短い,安価である,などのメリットがあることから,特に繰り返し経過観察をする患者にとっては非常に優しい検査である。
 良好な画像を得るためには歪みを少なく,脂肪抑制ムラをなくすことが重要である。 歪みを少なくするためには,可能な限りparallel imaging factorを大きくすることが必要である。 parallel imaging factorの制限がある装置の場合は,小さなphase FOVとすることで対応することが推奨される。 また,脂肪抑制ムラをなくすためには,STIRにSSGRを併用するのが良い。 特に3T装置においてはSSGRの併用は必須であると考えられる。


図5 前立腺癌多発骨転移(別症例)




【当院における撮像条件】

(使用装置:GE社製SIGNA Architect)
 

Scan Plane:Cor

FOV:60×36(phase FOV0.6)cm

Frequency direction:R-L

Slice thickness/gap:4.5/0mm

TR/TE/TI:5475/minimum(89)/250ms

Matrix:128×192, Number of Slice:47

b-value:900s/mm2, NEX:5

ASSET factor:2.0, dual SE:on

Fat Sat method:STIR, SSRF, SSGR

Scan Time:3min06sec×3station(9min18sec)


【出題・解説】
中 孝文(川崎幸病院 放射線科)
長谷 聡一郎(川崎幸病院 川崎大動脈センター 血管内治療科)