Case T07

原理から学ぶMR画像[1] T1強調像

1)T1強調像(SE法)

頭部ルーチン検査では,必ずと言っていいほど撮像するT1強調像。
画像の意義は
・解剖学的構造の確認
・信号変化(特に高信号)による病変の性状評価
などが挙げられます。
頭部では特に皮髄境界(白質と灰白質)のコントラストがきちんとついていることが重要になります。
3T MRIでは組織のT1延長やMT効果などによりT1コントラストが若干低下する傾向があります。
T1コントラストを向上させるにはTRの短縮やパルスシーケンスの変更(T1 FLAIRや3D GREなど)などが挙げられます。
1.5Tでの一般的なT1強調像の撮像条件はTR 500ms,TE 10ms,FA90°で撮像時間2〜4分程度になります。
今回はSE法T1強調像の画質(コントラストとSNR)について原理を交えてお話ししていきます。なお今回のコントラストは白質と灰白質のコントラストとします。

2)TR(repetition time:繰り返し時間)とFA(flip angle:フリップアングル)

TRを伸ばすほどSNR(signal-noise ratio:信号雑音比)は向上し,コントラストは低下します。(図1)

図1 FA 90°固定し,TR 300ms,400ms,500ms,600msを比較した画像



図2 TR 500ms固定し,FA 90°,80°,70°を比較した画像



つまり,スライス枚数の兼ね合いで最短TRが延長する場合などはFAを下げることでコントラストが改善できます。
ただしSNRは低下するため,NEX(number of excitations:加算回数)やNPW(no phase wrap)などで調整する必要があります。

3)FA 90°のT1強調像のコントラスト

ここからは原理による解説です。一般的なFA 90°での縦磁化の動きです(図3)。

図3 FA 90°パルス1発目のT1緩和曲線



これはダミーパルスなどない真の一発目の90°パルスによる縦回復の曲線になります。
実際には捨てられるデータです。これを数回繰り返すと縦磁化が一定(定常状態)になります(図4)。
(図3と図4は見た目ではほとんど変わりません)
90°パルスが打たれる直前の縦磁化の大きさが違います(図4の左端の大きさです)。

図4 FA 90°パルス数発目のT1緩和曲線



右端の時間(TR=500ms)での縦磁化の信号差が画像のコントラストになります。
TE 10msによる各組織のT2減衰の影響を無視して考えると,この縦磁化の差が次の90°パルスにより横磁化の大きさとなるため(縦のベクトルが90°に倒れると考えると),
  縦磁化が大きい=横磁化が大きい=画像で高信号

つまり,白質のT1値 600ms,灰白質のT1値 1,000msの場合、白質の縦磁化が大きいためT1強調像は白質の方が灰白質に比べ高信号となります。
ここまでがFA 90°の説明です。

4)FA 70°のT1強調像のコントラスト

続いてFA 70°の説明です。
FA 90°では縦磁化0からの回復であったのに対して,FA 70°では0より大きい状態からの縦回復になります(図5)。

図5 FA 70°パルス1発目のT1緩和曲線




これも数回繰り返すと縦磁化が一定(定常状態)になります(図6)。

図6 FA 70°パルス数発目のT1緩和曲線




順を追って説明すると(図7),
次の70°パルスを打つと縦磁化が若干残った状態になります(a:70°パルス照射)。
TE/2後に180°パルスを打つとこの残った縦磁化が反転します(b:180°パルス照射)。
つまり,180°パルスによりマイナス側から縦回復することになります。
これによりTR後における縦磁化は白質と灰白質に差が生じます。
また,縦磁化の大きさは90°に比べ小さいためSNRが低下していることがわかります。


図7 FA 70°パルス数発目のT1緩和曲線の説明(図6と同じ曲線)


まとめ

FA 70°を用いると70°〜180°の180°パルスが反転パルスの役割となり,T1コントラストがより向上します(図8,9)。

図8 各RFパルスにおけるT1緩和曲線


図9 FAの違いによるT1強調像



SNRが足りているのならば使用してもいい手法だと思います。
またTRを多少延長してもFAを下げることでコントラストが担保できます。
毎回TR,FAを変更して撮像することは読影医や臨床医にコントラストの解釈で誤解を招く可能性があるので避けるべきですが,1つの小技として覚えておいても損はないと思います。
SNRとコントラストのバランスは大事ですので,撮像の際には事前に自施設での検討,確認をしておくことをお勧めします。
*本内容は2018.1.24 C-MAC勉強会にて講演した内容を一部変更して作成しました。

● Doctor's Comment ●

【MRIの基本】
・MRIは水と脂肪の水素原子(プロトン)の画像です。
・信号はプロトン密度,T1,T2,動き(血流など巨視的,拡散など微視的),磁化率など多くの要素によって決まります。
・多くの要素が混在した画像であるため,1つの画像で病変の質的評価は不可能で,複数の強調像を比較することにより推測,診断します。
・作られた画像は強調すべき要素が明確であることが求められます。
・そのために適切な撮像法,パラメーターを選択し, T1強調像,T2強調像等の強調像を作成します。

【緩和時間】
・プロトンは存在する環境で緩和時間が変化します。
・周囲に存在する高分子(タンパク質や糖など)やイオンとの相互作用により水プロトンの状態が変わり,緩和時間が変化します。
・正常の状態と病的状態の違いを明瞭に画像化することにより,病気を発見,病態を推測します。
・正常構造の緩和時間の違いが鮮明であることは良い画像の指標となります。

【撮像法とパラメーター】
・SE(スピンエコー),GRE(グラディエントエコー),EPI(エコープラナー),SSFP(定常状態自由歳差運動)など多彩な撮像方法があります。
・それぞれTR(繰り返し時間),TE(エコー時間),FA(フリップ角)さらにバンド幅やエコースペースやエコートレイン数などパラメーターの選択肢は多岐にわたります。
・記述されているようにパラメーターを変えることにより画像のコントラストや信号雑音比は変化します。
・良好な画像を得るためにパラメーターの適切な変更,指示ができるようになることが大切です。

【T1とは】
・倒された磁化が元の状態に戻る時間のことで信号強度の回復力を示します。
・悪性腫瘍や炎症など主な病変は緩和時間が延長し,T1では低信号を示します。
・ちなみにT2では高信号となリます。
・T1で高信号(縦緩和時間が短い)を示す病変は特徴的であり,次のような原因が考えられます。
・磁性体
  -造影剤は少量で緩和時間を短縮させます。
  -赤血球のヘモグロビンは鉄を含み,その状態の変化に伴い緩和を短縮します。
・水分子の構造化,運動制限
  -タンパク質や糖など高分子物質と水分子が相互作用(くっつくこと)すると,水分子の運動が低下します。粘稠度の高い液体,高分子が豊富な組織がこれにあたります。
  -表面効果は石灰化の隙間に水分子が入り込んで,運動制限が起こります。

【T1強調像とは】
・繰り返し時間は100m秒,エコー時間は10m秒などと決まっているものではありません。
・撮り方,パラメーターで規定されているものでもありません。
・T1の違いが明瞭に表現されている画像が良いT1強調像です。
・今回のテーマにもなっている脳の灰白質と白質など代表的な構造のコントラストが明瞭なものが良い強調像です。
・MRIの原理をしっかり理解し,良好な画像を追求しましょう。


【出題・解説】
佐藤 広崇(草加市立病院 医療技術部 放射線科)
田中 宏(ケイエスクリニック)