Case T08

70代,女性。排尿障害を伴う下腹部痛。

追加撮像は?

・排泄相の追加撮影
・排泄造影剤での尿路系leakの確認



● Doctor's Comment ●

【超音波(US)画像所見(図1)】
 尿閉疑いとして腹部超音波を施行。
 両側に軽度の水腎症(grade 1)膀胱は消化管ガスで見づらいが,緊満感はない。可視範囲内で明らかな膀胱腫瘍や結石は見られない。

図1-A


図1-B


図1-C



【CT画像所見(図2)】
単純CT(図2-A)
 肝周囲および骨盤内に腹水を認める。腹水のCT値は+10HU程度である。肝硬変所見や消化管穿孔など腹水の原因となる画像所見は認められない。膀胱壁頂部に壁在石灰化を認める。両側軽度の水腎症。他,軽度の脂肪肝所見,大腸多発憩室,胃憩室を認める。
造影CT(図2-B)
 腎機能を考慮して造影剤は通常時(550mgI/kg)の半量を使用してCT撮影を行っている。
消化管や尿路系に明らかな器質的疾患や炎症所見は認められない。肝周囲および骨盤内の腹水は2時間前の単純CTと比較して明らかに増量している。短時間での腹水増量が見られ,尿路系からの漏出が疑われる。

図2-A 単純CT


図2-B 造影CT(2時間後)


● Technical Points ●

【撮像した放射線技師の対応】
 腹水は尿路系からの漏出を疑い,排尿を我慢した状態で30分後の追加CT検査を提案した。

【排泄相撮影(造影剤投与30分後に施行,図3)】
 尿路外の排泄造影剤を確認する目的の追加撮影ということでCT-AECの設定は通常SD13をSD20にして被曝を低減。WWを広めに設定することで低線量撮影によるノイズや排泄造影剤からのハレーションも目立たなくなる。造影剤を減量し、線量を下げた状態でも排泄造影剤のコントラストが高いため、Window調節により造影剤濃度変化など微細な所見も描出が可能である(▶)。

図3-A


図3-B


● Doctor's Diagnosis ●

【CT排泄相画像所見(図4-A)】
・膀胱周囲を中心として腹腔内に排泄造影剤と思われる高吸収な液貯留が描出された。
・膀胱周囲の腹水濃度は上腹部より濃く,MPRで観察すると膀胱頂部石灰化近傍より腹水との交通(▶)を認める。

【画像診断】膀胱損傷(穿孔)の疑い

【膀胱造影(図4-B)】
 ウログラフイン注60%を逆行性に注入して造影。250cc注入した時点でCT画像と一致する位置(膀胱頂部)に漏出を認めた。
  → 膀胱穿孔の診断に到り,保存的治療方針となった。

図4-A delayed contrast enhanced-CT


図4-B 膀胱造影(UG)


 

経 過

 1年前に膀胱生検した箇所とleak pointが一致。膀胱生検による壁の脆弱化が原因となった可能性が考えられた。
膀胱カテーテルを留置して保存的治療。3週間後,膀胱造影(UG)にてleakの消失を確認し,膀胱カテーテルが抜去された。その後,膀胱内圧をかけないように,頻回の排尿を指導された。

解 説

●膀胱穿孔・破裂の原因と治療●
【原因】12)



・解剖学的に最も脆弱な頂部が多い。
・症状は腹痛,尿閉,血尿が多い。
・臨床的には他科領域との鑑別が重要だが,初期診断で膀胱損傷を疑われた症例は43.2〜52.5%1)〜3)と低く,初期診断の難しさが示唆されている。

【治療】
・尿のドレナージ,破裂部位の修復,滲出液のドレナージ,強力な化学療法が基本とされている4)
・軽症例では膀胱カテーテル留置および抗菌薬での保存療法となる。
・腹膜内損傷など重症例は縫合閉鎖術となる。


●膀胱損傷の画像および臨床所見●
 画像所見と身体所見が当てはまれば,排泄相を考慮すべきシチュエーションである。



●排泄相を考慮すべきシチュエーション●


【排泄相撮影】
腎盂尿管癌ガイドライン2014  造影剤投与後8~10分
画像診断ガイドライン2013   造影剤投与後8分
GALACTIC(腎)        造影剤投与後180秒以降
GALACTIC(上部尿管・膀胱)  造影剤投与後8分以降
JATEC             造影剤投与後5分以降

・排泄相は充満した造影剤により欠損像を評価するパターンと尿路外に漏出した造影剤を評価するパターンがある。
・各種ガイドラインは排泄相撮影タイミングはバラバラである。
・外傷性尿溢流は15分以上経過しないと描出できない5)との報告もある。
膀胱内圧が高くないと造影剤漏出が認められないことがある6)
・GALACTIC(膀胱)では「検査の1~2時間前から排尿を禁ずる」と「造影剤投与前の飲水による水負荷」(膀胱内圧の上昇) の記載がある。
・膀胱造影において少なくとも250ml以上の造影剤を注入することで膀胱破裂を見落とす危険性を回避しうる7)

● Technical Points まとめ ●

【膀胱損傷(穿孔)症例における排泄相撮影】
・エビデンス(文献)や膀胱造影の結果からも瘻孔が小さければ蓄尿させある程度の膀胱内圧が必要。各種ガイドラインが示すタイミングより遅らせる必要がある。
・膀胱への尿の生成が60ml/1時間とし,微細な瘻孔を想定すると,蓄尿状態で造影剤投与後30分以上後の撮影がbetterと考えられる。
・低線量,腎機能が悪く造影剤を減量した状況であっても排泄造影剤により診断に耐えうる十分なコントラストが得られ,診断可能であった。
●参考文献●
1)長門 優, 原山信也, 岩田輝男・他: 術前に診断し得た神経因性膀胱に伴う膀胱自然破裂の1例. 日救急医会誌 19: 99-105, 2008.
2)村田泰洋, 五嶋博道, 加藤弘幸・他: 放射線性膀胱炎に併発した膀胱破裂の2例. 日臨外会誌 68: 2604-2609, 2007.
3)服部典子, 中山隆盛, 白石 好・他: 腸閉塞を呈した膀胱破裂の2例. 静岡赤十字病研報 23: 42-47, 2003.
4)山村英治, 松田 潔, 望月 徹・他: 手術が必要となった腹膜外膀胱破裂の1例. 日外傷会誌 29: 368-371, 2015.
5)中島洋介, 北野光秀, 吉井 宏: 鈍的腎外傷の評価と治療方針について. 泌尿器外科 21: 147-154, 2008.
6)惣那賢志・編: 目からウロコのかぜ診療. レジデントノート 17, 2015.
7)Peters PC: Intraperitoneal rupture of the bladder. Urol Clin North Am 16: 279-282, 1989.
8)日本泌尿器科学会・編: 腎盂・尿管癌診療ガイドライン 2014年版. メディカルレビュー社, 2014.
9)日本医学放射線学会, 日本放射線科専門医会・医会・編: 画像診断ガイドライン 2013年版. 金原出版, 2013.
10)撮影部会企画: X線CT撮影における標準化~GALACTIC~(改訂2版). 日本放射線技術学会, 2015.
11)日本外傷学会・監修: 改訂第5版外傷初期診療ガイドラインJATEC. へるす出版, 2016.
12)Titton RL, Gervais DA, Hahn PF, et al: Urine leaks and urinomas: diagnosis and imaging-guided intervention. Radiographics 23: 1133-1147, 2003.


【出題・解説】
市川 宏紀(大垣市民病院 診療検査科)
曽根 康博(大垣市民病院 放射線診断科)