Case T09

8歳,女児。右足関節の外側腫脹と疼痛。
つまずいて右足を捻挫後,足首が腫れてきたので近くの開業医院にて,画像検査として足関節の正面と側面の2方向のX線撮影を行ったが,明らかな骨折を認めなかった。翌日,症状が良くならないので整形外科のある病院を受診した。

追加撮像は?

ATFL view(anterior talofibular ligament view)


● 画像所見 ●

【初診時の画像所見】
 足関節の単純X線正面像(図1-A)では,明らかな骨折所見は認められない。正面像の外果部拡大像(図1-B)では,軟部陰影の腫脹(▶)を認めるが,裂離骨片を認めない。側面像(図1-C)でも,腓骨が重なるが足関節に明らかな骨折所見は認められない。

図1-A 足関節
単純X線正面像


図1-B Aの拡大


図1-C 足関節単純X線側面像



 腓骨頭を斜位像で投影する回内斜位撮影をしたところ,斜位像(図1-D)での骨折線もなく,同部の拡大像(図1-E)の▶部分には裂離骨折を疑う骨片が認められない。

図1-D 足関節
単純X線回内斜位像


図1-E 足関節単純X線斜位像(拡大)



【追加撮影による画像所見】
 外果部の腫脹および内転外傷による足関節外側側副靱帯裂離骨折を疑い,ATFL viewを追加撮影像(図1-F)したところ,同部の拡大像(図1-G)に裂離骨片(▶)が認められ,裂離による腫脹を伴う裂離骨折を疑われた。

図1-F ATFL view


図1-G ATFL view(拡大)


 後日の経過観察検査として,ATFL view撮影にて裂離骨折を観察する。

● Technical Comments ●

【ATFL view撮影法】
 座位または臥位において膝関節を屈曲し,図2-Aに示すように足底面を受像面に付け足関節を約45˚底屈させる。図2-Bに示すように足部外側縁を受像面に密着させたまま内反約15˚浮かせた肢位とする。X線中心は前距腓靱帯付着部がある腓骨遠位端,X線入射角は受像面に垂直とする。足関節外側側副靱帯裂離骨折ではATFL view像(図2-C)において,腓骨遠位端に裂離骨片(▶)が描出される。

図2-A:足関節を約45˚底屈位,
B:足底面を内反約15˚


図2-C ATFL viewのX線解剖


 

● 解 説 ●

【足関節外側側副靱帯裂離骨折】[参考文献1)〜3)]
 小児の足関節外傷では外側靱帯損傷が多く,足関節に強い外力が加わると骨に比べ靱帯組織が強いため靱帯付着部の軟骨を含む裂離骨折となることが多い1)。その治療は保存療法が主体であるが,骨折が関節内骨折であるため,断端に間隙があると骨癒合不全を起こし良好な成績が得られないことから手術療法を勧める報告もある2)
 関節内骨折である裂離骨片の癒合率は低いため,骨癒合や線維性癒合が得られなければ,裂離骨片が余剰骨として残存し,前距腓靱帯の機能不全による疼痛などの障害が生じる恐れがある。このことから,初診時X線撮影において骨片の転位を最小にとどめ,裂離骨折の有無を確実に判定できる検出能が高い撮影法としてATFL view撮影が求められる3)

【ATFL view撮影】[参考文献3),4)]
 ATFL view撮影は,兼子4)らの施設を受診した足関節捻挫403例を対象に,前距腓靱帯(ATFL)viewを用いて損傷形態,特に外側靱帯付着部骨折について調査した。その結果,骨折と診断されたものは88例(21.8%)であった。骨端線閉鎖前では骨折は1/3以上に認め,ATFL付着部剥離骨折が多かった。ATFL付着部剥離骨折の80%以上は通常のX線撮影では診断できず,ATFL viewが有用であったと報告がある。
 通常の正面側面2方向のX線画像に追加するX線撮影法としてのATFL view撮影は,座位で足関節を45°底屈した状態で足底を受像面につけ,足背を15°内反位とする。この肢位により前距腓靱帯の付着部に対しX線束が接線方向に撮影できる。


● Doctor's Comment ●

 前距腓靱帯損傷や腓骨遠位端の裂離骨折が疑われた症例において、近年はCTやMRIが施行されることが多い。MRIは靱帯の描出には優れるが、裂離骨片の検出は時に難しい。CTは裂離骨片の検出に優れ、3D表示やMPR画像にて骨片転位の評価も容易となるが、空間分解能においては単純X線写真に及ばないため、詳細な評価において「良く描出された」単純X線写真には劣ることになる。さらに保存的治療が選択された後の経過観察においては頻回の検査が必要となるため、単純X線写真がベストチョイスである。本症例では様々に工夫を重ねながらATFL viewを用いることで、裂離骨片を検出し、裂離部位との関係も明らかになった。今後の経過観察においてはATFL viewが選択されるであろう。
 このような「撮影のプロ」が現場にいてくれれば、臨床医の仕事は非常に楽になると思われる。放射線診断医が骨、関節単純X線写真の読影を依頼される機会は少ないが、このように「美しい一枚」で診断する方が、膨大な枚数のCT画像を(裂離骨片を探すために)読影するよりも、どれほど楽なことかと正直思う。


【出題・解説】
安藤 英次(大阪ハイテクノロジー専門学校 診療放射線技師学科)
松尾 義朋(イーサイトヘルスケア)