Case T10

Q:アーチファクトの原因と対処方法は? ⇒ 解答

【アーチファクトの原因】 歯科インプラントの磁化率アーチファクトの影響により脂肪抑制が水抑制として働いている。
【対処方法】 脂肪抑制を使用せず,TEをout of phaseにする。

● Technical Comment ●

原因の解説:歯科用インプラントの磁化率アーチファクトにより,周囲プロトンの共鳴周波数が変化し,脂肪抑制が水抑制として働いている。
対処方法(図B,C):脂肪抑制(Chess法)を使用せず,TEをout of phase(3.4ms)にすることで脂肪信号を抑制する(当院では3.0Tの装置を使用)。

B 3D TOF MRA



C 3D TOF MRA(改)


● Doctor's Comment ●

【画像所見】
 Localizerで口腔内を中心に陰影欠損(図A),MRAでは両側内頸動脈および椎骨動脈に描出不良を認める(図B)。

A Localizer


B 3D TOF MRA



【対処法の画像所見】
 脂肪抑制を使用せず,TEをout of phaseにした3D-TOF-MRA(図C)では,両側内頸動脈および椎骨動脈描出は良好であり,異常は認めない。

C 3D TOF MRA(改)


磁化率アーチファクトの抑制

MRIでは前述のような磁化率の影響により,アーチファクトが発生することがある。また,そのようなアーチファクトを減らすための技術も進んできており,磁化率アーチファクト抑制技術の例を以下に2つ示す。

【磁化率アーチファクト抑制技術① ―PROPELLER-DWI―】
 PROPELLER-DWIはfast spin echo系の拡散強調像(DWI)であるため,EPI-DWIと比較して磁化率アーチファクトの影響を抑制することができ,特に微小脳幹梗塞の検出に有用である。ただし,multi-shotで撮像するため,single-shot EPI DWIと比べ,撮像時間が長くなる。

D Single-shot EPI-DWI


E PROPELLER-DWI




【磁化率アーチファクト抑制技術② ―Silenz―】
 図F,Gは動脈瘤クリップ術後の画像である。Time of flight(TOF)法(図F)と比較し,Silenz(図G)ではクリップによる磁化率アーチファクトの影響が少なく,信号欠損や末梢血管の描出能が改善していることがわかる。
 Silenzは3DのゼロTEイメージングであり1),TEを限りなく小さくすることで,磁場の不均一に伴う位相分散を小さくすることができ,結果として磁性体による信号欠損を改善することが可能となり,特に動脈瘤のコイル塞栓術後の評価に有用である。また,TOFと同等の撮像時間で全脳のMRAを撮像することができ,AVM(脳動静脈奇形:arteriovenous malformation),AVF(動静脈瘻:arteriovenous fistula),もやもや病などTOFでは描出が困難な細かな血管の描出にも有用である2)


F Time of flight


G Silenz



【出題・解説】
中 孝文(川崎幸病院 放射線科)
長谷 聡一郎(川崎幸病院 川崎大動脈センター血管内治療科)