Case T12

T1強調像のバリエーション

1)出題ページの解答

図1 出題画像



MRIにはたくさんのシーケンスがあり,様々なコントラストで画像化します。
そして,まず水の信号はT1強調像=黒,T2強調像=白(1クロ,2シロ)と学びコントラストを理解しはじめるきっかけとなります。
さて問題に戻ります。水(CSF)の信号強度は低信号,大脳の信号強度は白質>灰白質ですね。
そう,全てT1強調像です。

MRIの信号収集の流れは,励起→収束→信号収集と一様です。

では,3つの画像の違いは何でしょうか?
シーケンスチャートを覗いていきます。

2)SpinEcho法

図1 SE法のシーケンスチャート




励起(90°パルス)→再収束(180°パルス)→信号収集となっています(図1)。再収束パルスがRFパルスで行われるのがSpinEcho法です。
横磁化(T2)の影響を少なくするためTEは短く,組織ごとの縦磁化の差を強調するためTRも短く設定(1.5T; 400~600ms, 3.0T; 500~700ms)します。TRの変動とともにコントラストとSNRも変動します(図2)。

図2 TRを可変させた画像の違い(1.5T)




このコントラストとSNRの違いを補正するために,TRごとにFlip angle(FA)を調整することが推奨されています(図3)。


図3 FAの違いによるコントラストの比較(同一TR)
(左図 FA:90/右図 FA:63)


3)3D-GRE法

図4 2D-GREのシーケンスチャート



図4は2D-GREのシーケンスチャートですが,励起(α°パルス)→ 再収束(傾斜磁場)→ 信号収集となっています。 再収束が傾斜磁場でおこなわれるのがGRE法です 3D-GRE法は,thin sliceかつ高速撮像が可能です。
単純撮像では,VSRADなど脳の体積測定や萎縮の評価といった形態評価に用いられます1)
白質と灰白質のコントラストを強調するためにpre pulseを付加するMPRAGE2)という手法も利用されています(図5)。


図5 MPRAGE(左)と3D-GRE(右)



造影検査では脂肪抑制を併用し脳腫瘍の検出に用いられています。近年,3D Variable Flip Angle (VRFA) FSE法3)との腫瘍の検出率,造影効果を比較した報告が散見されます。3D VRFA FSE法の方が造影効果が高い4),血管の信号が目立たない4),検出率が高い5),と様々な報告があるため施設ごとに検討してみるとよいのではないでしょうか。

4)T1-FLAIR

図6 T1-FLAIRのシーケンスチャート



あまり馴染みがないかもしれませんが,水信号を抑制し,白質と灰白質のコントラストがSE法のT1強調像と同じになるようなシーケンスチャートになっています。 3T装置では,縦緩和が延長しT1コントラストが低下します7)。それを補うためにIRパルスを利用しコントラストの改善を行っています8)
T2-FLAIRとは異なり,T1強調像のためTRは短く(1500ms前後)設定されています。そのため,TIもT2-FLAIRに比べ短く設定されています。 コントラストは改善されますが,造影検査で使用するとIRパルスの影響で造影効果が十分に反映されない可能性がありますので,慎重に行う必要があります。

以上,三種類のT1強調像についておおまかではありますが解説しました。 それぞれのシーケンスの特徴を理解し,適切な撮像条件で運用することが重要です。

● Doctor's Comment ●

【T1強調像】
一般的に病変が高信号を示し認識しやすいT2強調像に対し,T1強調像では多くの病変が低信号となり,病変の評価ではT2強調像より劣る印象があります。このため病変を評価するというより形態の評価に利用されていることが多いように思います。しかし,T1強調像の信号強度も大きな意味を持っており,コントラストの良好な画像が必要となります。
良いT1強調像である目安は,頭部では白質,灰白質の分離が良好であること,腹部では腎臓の皮質と髄質が明確に分離できることなどが挙げられます。この所見は臓器や構造が正常であるかどうかの重要な指標となります。
膵臓や肝臓などT1強調像で高信号を示す臓器では,緩和が延長し低信号を示す病変の検出において,T2強調像よりも優れています。T1強調像で病変の有無をチェックし,見つけた病変の信号強度をT2強調像と比較することが多々あります。

【高信号を示す病変】
特徴的な所見としてT1高信号病変が挙げられます。
出血はヘモグロビンの鉄の磁化率効果により高信号を示します。さらにヘモグロビンの状態の変化により信号強度も変化します。これを利用することにより,脳出血では出血の時期まで推定できます。腹部の病変では病変内の出血の有無が診断を進める上で重要な情報となります。強いT1短縮効果を持つため,微量の出血も検出可能となります。

【結節性病変】
T1は自由水が明瞭な低信号を示し,粘稠度が増す(高分子との相互作用)につれて信号が上昇します。多くの子宮筋腫や慢性肝疾患における結節性病変の評価に有用な情報となります。私はT1強調像で高信号を示す結節では細胞密度の上昇(緩和の長い細胞外液(血液,リンパ液など)の減少)を反映していると考えており,T2強調像と比較することにより,結節の病理的背景をより詳細に推測することが可能だと思っています。

【嚢胞性病変】
腹部では嚢胞性病変は最も良く遭遇する異常の一つです。特に卵巣と膵臓では嚢胞内の液体が漿液であるか粘液であるかの判断は重要で,正確な診断への重要なプロセスとなります。肝臓,腎臓の嚢胞では出血の有無などが複雑嚢胞の診断に有用です。

【造影検査】
ダイナミック検査では,時間分解能を上げるためには撮像時間の短縮が求められます。また平衡相では状況により(脳転移の評価など)血管の造影効果を排除する撮像方法が求められます。施設により,また対象疾患により有用な撮像条件は異なります。臨床医と相談し,最良の撮像方法を使用する必要があります。

T1値はT2値と比較し長く,その違いを表現することには工夫が必要です。特に3T装置の普及に伴い,磁場強度に伴い緩和時間が延長するT1値の強調はますます困難になってきています。本文にあるように各施設で工夫し,より良いT1強調像を撮像してください。


【出題・解説】
小島 正歳(千葉メディカルセンター 放射線部)
田中 宏(ミナ企画)