症例12

疾患名・解説
症 例
50歳代・女性 息切れ、咳、血痰

Step2

診断名を見て、再度画像診断を検討してください

診断:気管支内腫瘍
(cendobronchial tumor)

病理組織診断:扁平上皮癌(低分化型)
(Squamous cell carcinoma)

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Step3

CT所見、用語(解剖)解説と病変所見のあるキー画像

キー画像の右側の“>”をクリックすると画像上の重要所見に矢印マークが現れ、さらに“>”をクリックすると所見のコメントが現れます。Thin-slice画像や白黒反転での読影にも挑戦してください。


画像所見の解説

CT所見

気管支、肺野
1.気管支内腔の鋳型状の腫瘤:中間気管支幹から右下葉気管支・B7,B8には内腔に充実性腫瘤が鋳型状に充満している。この腫瘤のため気管支の内径は棍棒状に拡大し、内腔は閉塞している。右中葉気管支口にも腫瘤の突出が見られる。この鋳型状の気管支内腫瘤には軽度の造影増強効果が見られる。大きな気管支内腫瘍(endobronchial tumor)である。明らかな気管支壁外への浸潤は認めない。
2.気管支内の粘液栓:B9,B10の内腔は造影CTで低吸収域を呈し、平滑な先細りを呈している。内径の拡張は見られない。造影効果は認められないので、粘液栓(mucus plug)による閉塞と考えられる。B4,B5,B6には粘液栓によるfinger-in-glove signやtree-in-bud signも見られる。
3.肺野には無気肺と気腫性変化(エアートラッピング)が混在:右下葉にはS8,S9の楔型・扇状の末梢肺の虚脱(無気肺)が見られる。また右中葉と下葉には多発性・集簇性・区域性に分布する樹枝状影と肺野透過性亢進が見られ、気管支閉塞に伴う気管支粘液栓と気腫性変化(エアートラッピング)と考えられる。
4.縦隔リンパ節は気管分岐下リンパ節の腫大が見られ、転移の可能性あり。


キー画像1 冠状断で観察

気管支内に鋳型状に充満する腫瘍
末梢側気管支:粘液栓塞
無気肺
気管分岐下リンパ節腫大


キー画像2

気管支内に鋳型状に充満する腫瘍
右下葉のエアートラッピング


キー画像3

気管分岐下リンパ節腫大


キー画像4

下葉気管支内に鋳型状に充満する腫瘍


キー画像5-1 気管支内に鋳型状に充満する腫瘍と末梢肺の変化

末梢側:粘液栓、無気肺
※粘液栓は造影増強効果が見られないため、腫瘍部よりも低吸収域を示す。

キー画像5-2 気管支内に鋳型状に充満する腫瘍と末梢肺の変化

末梢側:粘液栓、エアートラッピング、無気肺
※細気管支レベルの粘液栓は、tree-in-bud signを示す。

キー画像5-3 気管支内に鋳型状に充満する腫瘍と末梢肺の変化

末梢側:粘液栓、エアートラッピング、無気肺

キー画像5-4 気管支内に鋳型状に充満する腫瘍と末梢肺の変化

末梢側:粘液栓、エアートラッピング、無気肺
※白黒反転画像では、finger-in-glove sign、tree-in-bud signの検出が容易で、またエアートラッピングのコントラストも良好。

キー画像5-5 気管支内に鋳型状に充満する腫瘍と末梢肺の変化

末梢側:粘液栓、エアートラッピング、無気肺
※白黒反転画像では、末梢肺の無気肺やエアートラッピング、末梢気管支の分枝状影粒状影(tree-in-bud sign)や区域‐亜区域気管支のfinger-in-glove signは明瞭。腫瘍が気管支内かどうか識別が難しい時には、腫瘍の先端部を見ることで判別可能。

...

キー画像6 気管支内腫瘍:先端部(中間気管支幹)

冠状断像と横断像で腫瘍が気管支内にあることを確認。

...

Step4

疾病の解説と所見のまとめを見た後、再度画像診断を検討してください

本症の解説

扁平上皮癌

1.扁平上皮癌は肺癌の中で腺癌についで2番目に多く、30~40%を占める。
2.ニッケルなどの毒性物質への曝露で発症するリスクあり。
3.発生は喫煙と高度に関連するが、日々の喫煙本数との相関は女性で強く男性ではそれほどでもない。
4.組織学的には、ケラチンと細胞間架橋が見られ、分化型が高くなるとケラチンパールが見られ、皮膚に似ることから ”epidermoid carcinoma” とも呼ばれる。
5.主気管支から亜区域気管支に発生する中枢型とそれより末梢に発生する末梢型に分類され、中枢型が多い(約60%)。末梢型は胸壁浸潤を来すことがあり、肺尖部に発生するPancoast腫瘍の多くは扁平上皮癌である。中枢型扁平上皮癌では、気管支内腔にポリープ状に突出するとともに気管支壁に浸潤する。症状は咳、血痰、喀血が多い。胸部単純写真では肺門腫瘤影で閉塞性肺炎や無気肺を伴う。気管支閉塞は約56%の患者で見られる。CTは扁平上皮癌の早期発見に有用で、気管支内腔にポリープ様隆起を来したり、気管支壁の軟骨層に浸潤する段階での検出ではthin-sliceCTの感度が高い。初期には限局性の壁肥厚のみを示す。
6.中心部壊死はしばしばサイズの大きな腫瘍で見られる。中心部の空洞形成もよく見られる(約15%)。
7.肺癌の中で最も遠隔転移の確率が低い。転移箇所は、近傍のリンパ節への直接進展が多い。時にリンパ節にサルコイド様反応をもたらし、転移がなくてもリンパ節腫大を来すことがある。


気管支内腫瘍のCT所見のまとめ

1.気管支内腫瘍:気管支内腔に突出する隆起性病変で、形状はポリープ状、扁平状(平坦状)や、気管支内に充満し鋳型状に膨張性腫大する腫瘤(finger-in-glove sign) などさまざま。
2.腫瘍の性状:単純CTで軟部組織濃度、造影CTで増強効果あり(粘液栓との鑑別)。
3.随伴所見:末梢側に区域・亜区域気管支の粘液栓塞(finger-in-glove sign)、小葉中心性の分枝状影・粒状影(tree-in-bud sign) (細気管支レベルの粘液貯留)、エアートラッピング、肺虚脱(無気肺)、閉塞性肺炎など。

メモ:気管・気管支内腫瘍の一覧リスト

1.原発性悪性腫瘍:

squamous cell carcinoma,
small cell carcinoma,
carcinoid,
adenocarcinoma,
mucoepidermoid carcinoma,
adenoid cystic carcinoma

2.転移性悪性腫瘍

breast cancer,
renal cell carcinoma,
colon cancer,
malignant melanoma, etc.

3.良性腫瘍:

hamartoma,
papilloma,
leiomyoma,
lipoma,
chondroma,
neurogenic tumor (schwannoma),
pleomorphic adenoma,
granular cell tumor, etc.

4.非腫瘍性:

amyloidoma
fibroepithelial polyp

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