症例09
疾患名・解説
Step2
診断名を見て、再度画像診断を検討してください
Step3
CT所見、用語(解剖)解説と病変所見のあるキー画像
キー画像の右側の“>”をクリックすると画像上の重要所見に矢印マークが現れ、さらに“>”をクリックすると所見のコメントが現れます。Thin-slice画像や白黒反転での読影にも挑戦してください。
画像所見の解説
CT所見
気管支、肺野
1.気管にびまん性の不整な壁肥厚と濃度上昇が見られる。横断像では壁肥厚は前壁と側壁を主体に認められ、背側の膜様部では見られないか軽微である。
2.両側主気管支、中枢側の気管支にはほぼ全周性の不均一な壁肥厚と濃度上昇が見られる。内腔は不整な狭窄を来している。
3.肺野濃度は不均一で、左右上葉と下葉の一部に肺野濃度の軽度の低下(エアートラッピング)が見られる。
そのほかのCT所見
前胸壁の肋軟骨は両側多発対称性に腫脹し、周囲に低濃度域の軟部組織の腫脹が見られる。
キー画像1 気管気管支の壁肥厚と濃度上昇
気管には不整壁肥厚が見られる。前壁と側壁を主体に肥厚し、背側の膜様部には壁肥厚が見られない。そして中枢側の気管支の壁はほぼ全周性に不均一に肥厚し濃度上昇も見られる。このため内腔は不整な狭窄を来している。
キー画像2 肋軟骨の腫脹
肋軟骨には両側多発対称性に腫脹が見られる。肋軟骨を取り囲むように低濃度域の軟部組織腫脹も見られる。
キー画像3 気管支の内腔狭窄とエアートラッピング
気管支の内腔狭窄は、CT画像のウィンドウ幅を通常の肺野を観察するくらいに広げ(1300〜1600HU)、ウインドウレベルを通常よりもやや高め(-500HU程度)にすると観察しやすい。
気管支内腔の観察条件:ウィンドウ幅・レベル:1350/-500HU
気管支内腔の観察条件:ウィンドウ幅・レベル:1350/-500HU
通常CTは吸気位で撮像するので、肺全体の濃度が低下する。このため、エアートラッピング病変を濃度のさらに低下した領域として描出するのが困難であるが、CT画像のウィンドウ幅を通常の肺野観察する条件よりも狭く(約500HU程度)設定し、ウインドウレベルを通常よりもやや低め(-800~-900程度)にすると肺野の含気量の差異(コントラスト)を強調できる。
エアートラッピングの観察条件:ウィンドウ幅・レベル:460/-800HU
エアートラッピングの観察条件:ウィンドウ幅・レベル:460/-800HU
キー画像4 気管気管支の壁肥厚と濃度上昇、内腔狭窄
気管と中枢側の気管支の壁はびまん性に不均一に肥厚し濃度上昇も見られる。このため内腔は不整な狭窄を来している。
キー画像5 気道3D画像
気道の3D画像は再発性多発軟骨炎による気管気管支の内腔狭窄の把握に有用である。気管気管支には口径不整が見られ、多数の気管支狭窄あり。
参照画像: FDG-PET/CT画像
CTと同時期に撮像されたFDG-PET/CT画像(MIP像と冠状断・軸位断カラー画像)では、気管気管支に沿って不均一な高度のFDG集積が見られる。頚部に見られる集積増加の病変部位は甲状軟骨・輪状軟骨・披裂軟骨である。また胸腹部領域には胸骨剣状突起と多数の肋軟骨に高集積が見られ、肋軟骨の病変分布はほぼ左右対称である。
この症例では、耳介への集積増加は見られない。
MIP画像
冠状断像
軸位断
Step4
疾病の解説と所見のまとめを見た後、再度画像診断を検討してください
本症の解説
再発性多発軟骨炎
・再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis(RP))は、全身の軟骨組織が特異的に再発性の炎症を来す比較的稀な疾患で難病に指定されている。
・原因は不明で、軟骨内に存在するコラーゲン成分に対する自己免疫の関与が示唆されている。
・症状は、炎症を来した軟骨組織の局所の発赤・腫脹・疼痛が主症状である。罹患部位(耳介、鼻、蝸牛・前庭部、関節、など)によって特異な症状を伴う。耳介の発赤・腫脹・疼痛は本症に特徴的で、病変の進行とともに耳介の変形を来す。鼻では鼻根部軟骨炎に伴う鼻閉、鼻出血、鞍鼻を認める。蝸牛・前庭部に病変が及べば難聴・耳鳴り・めまいを来す。多発関節炎やぶどう膜強膜炎などの眼症状を合併することもある。重症では発熱や全身倦怠感などの全身症状を伴う。
・呼吸器症状(嗄声、息切れ、喘鳴、呼吸困難など)は、喉頭軟骨や気管気管支軟骨が侵されるために引き起こされ、本症の約50%に出現する。喉頭軟骨や気管気管支軟骨の破壊、脆弱化、線維化によって気道狭窄や虚脱を引き起こす。気道病変による呼吸不全や呼吸器感染症の合併は生命予後を左右する因子である。
再発性多発軟骨炎のCT所見のまとめ
1.気管気管支の壁肥厚(特に軟骨部)と内腔狭窄。壁肥厚部の軟骨は濃度が上昇し、石灰化を伴うこともある。
2.気管壁の肥厚は、軟骨の存在する前壁・側壁が主体で、軟骨の存在しない膜様部には乏しいことが特徴的。このためCT横断像では馬蹄形の壁肥厚像を示す。
3.呼気CTで気管気管支の虚脱:気道の軟骨の炎症と破壊に伴う変化である。
4.末梢肺野のエアートラッピング:呼気CTで明瞭である。
5.肋軟骨の腫脹:肋軟骨の炎症による。
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参考文献:文献へのリンク付
1.Ernst A, Rafeq S,
Boiselle P, et al. Relapsing Polychondritis and Airway Involvement. Chest 2009; 135(4):
1024-1030
2.Heidinger BH, Occhipinti M,
Eisenberg RL, et al. Imaging of Large Airways Disorders. AJR 2015; 205: 41–56
3.Lee KS, Ernst A, Trentham
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2006; 240: 565–573
4.Sato M, Hiyama T, Abe T,
et al. F-18 FDG PET/CT in relapsing polychondritis. Ann Nucl Med 2010; 24: 687-690
2017-05-01
本症例は「症例画像データベース」に登録されました。