2章 血流障害基礎01

症 例
67歳,男性.昨日から心窩部痛で他院を受診し水腎症の診断で投薬.腹痛が続くため当院受診.既往歴:狭心症,脳梗塞.体温 37.2度.血圧 96/46,脈不整.腹部全体に圧痛を認める.WBC 20,800/μL,CRP 0.2mg/dL,D-ダイマー 2,275μg/mL,心電図で心房細動を認める.

画像所見

肝臓に区域性の低濃度が散在して門脈内ガスを認めます.右腎臓に区域性の造影剤不良領域を認め,多発梗塞があります.

左尿管結石あり,尿路が拡張しています.

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 多量(+)
③回腸領域 中等量(+)
④盲腸 中等量(+)
⑤下行結腸 少量(+)
⑥直腸 (-)

重症度判定

3) 腹水(腹腔内の広がり)
①肝周囲(右横隔膜下) (+)
②脾臓周囲(左横隔膜下) (+)
③Morison窩 (+)
④右傍結腸溝 (+)
⑤左傍結腸溝 (+)
⑥小腸間 (+)
⑦骨盤腔 (+)
4) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) (+)
腹腔内全体に腹水を認めIVCも虚脱しているので,重症な状態です.

原因部位の同定(特急券)

5) Dirty fat sign(問題部位近傍) (+)
6) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)

Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択

スクリーニングで小腸が造影効果のある部分とない部分に明らかに分かれていることがわかります.この時点で腸管虚血を想起してください.

腸管虚血を疑うサインを以下に記載します.

  1. 腸管造影不良・欠損
  2. 出血性壊死
  3. 壁内気腫,門脈内ガス
  4. 大量腹水,血性腹水
  5. 腸間膜血管の異常走行・びまん性拡張(炎症でもあり)
  6. Dirty fat sign(炎症でもあり)
  7. 腸管壁の粘膜下浮腫(炎症でもあり)

腸管造影欠損,門脈内ガスを認めますので腸管虚血ありと判断して,ショートカットで[血流障害アルゴリズム]に飛びます.

本症例は腸麻痺所見が目立つので,血流障害の基本「腸麻痺をみたら動脈性血流障害を疑うこと」,「浮腫腸管をみたら静脈性血流障害を疑うこと」から,動脈性の血流障害が疑わしいと頭の中に入れておきます.

通常の以下のアルゴリズム選択方法に沿って[炎症+血流障害アルゴリズム]を選択し,[炎症アルゴリズム]を経て[血流障害アルゴリズム]を用いても良いのですが,読影に時間を要するのでショートカットした方が効率的です.

以下アルゴリズム選択方法を記載します.
(この教材では狙い撃ち読影を行わずアルゴリズムを選択する方法で読影します)

1.Free air(+):【穿孔系コンボ】

[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】

1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)

a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]

b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]

c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]

2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)

Step3アルゴリズムに沿って読影

[血流障害アルゴリズム]に沿って読影します.

[血流障害アルゴリズム]は以下になり,順番に読影します.

1.腸管虚血のサインの確認

腸管虚血のサインは腸管造影欠損,門脈内ガスを確認済です.

2.SMAの追跡:SMA塞栓症,NOMI(非閉塞性腸管虚血)

SMAを起始部から追跡します.途中まで良好に造影されているが,SMVと伴走するレベルで造影効果を認めなくなります.

3.SMVの追跡:SMV血栓症

SMVに血栓を認めません.

4.絞扼の否定

SMA塞栓症を認めたので絞扼の有無は確認しません.

診 断

SMA塞栓症

本症例は当院外科が緊急手術中のため,他院搬送となりました.

「腸麻痺をみたら動脈性血流障害を疑うこと」は機能しますね.ステップ読影を無意識にできるようになれば,「腸管虚血」+「腸麻痺」の所見のみで動脈性血流障害を真っ先に疑って,SMAとIVCに目が行くようになります.