5章 大腸閉塞基礎01

症 例
82歳,女性.4日前から排便がなく嘔気・腹痛が出現し,救急外来搬送.虫垂切除と子宮筋腫摘出術の既往がある.体温 36.6度.腹部は膨満しており,下腹部に軽度圧痛を認める.WBC 6,800/μL,Hb 10.5g/dL,CRP 0.1mg/dL.

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 (-)
③回腸領域 少量~中等量(+)
④盲腸 少量~中等量(+)
⑤下行結腸 多量(+)
⑥直腸 中等量(+)

重症度判定

3) 腹水(腹腔内の広がり)
①肝周囲(右横隔膜下) (-)
②脾臓周囲(左横隔膜下) (-)
③Morison窩 (-)
④右傍結腸溝 (-)
⑤左傍結腸溝 (-)
⑥小腸間 (+)
⑦骨盤腔 (-)
4) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) 軽度(+)

原因部位の同定(特急券)

5) Dirty fat sign(問題部位近傍) (-)
6) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)

Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択

以下アルゴリズム選択方法を記載します.
(この教材では狙い撃ち読影を行わずアルゴリズムを選択する方法で読影します)

1.Free air(+):【穿孔系コンボ】

[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】

1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)

a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]

b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]

c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]

2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)

本症例では,Free air(-)なので[腸管内液貯留コンボ]を選択し,下行結腸液貯留は多量(+)のため[大腸腸閉塞アルゴリズム]を選択します.

Step3アルゴリズムに沿って読影

[大腸腸閉塞アルゴリズム]に沿って読影します.

1.多量の液貯留・緊満範囲の確認:3点チェック(上行結腸・下行結腸・直腸)

多量の液貯留・緊満範囲,3点チェックをします.

  • 盲腸 少量~中等量(+)
  • 下行結腸 多量(+)
  • 直腸 中等量(+)

で,下行結腸から直腸までの間で閉塞が疑われます.

2.遠位拡張腸管を肛門側へ追跡読影:腫瘍性閉塞・偽性腸閉塞・便秘

遠位拡張腸管を肛門側へ追跡読影すると,S状結腸に便塊が多量に貯留しており,その口側で腸管が緊満しています.便閉塞の肛門側に腫瘍は認めません.

3.口側腸管の閉塞性腸炎,穿孔の確認

口側腸管の閉塞性腸炎・穿孔は認めません.
穿孔の危険性の高い大腸閉塞のクライテリアは満たしていません.

  1. 壁内気腫
  2. 盲腸の最大径>12cm
  3. 小腸拡張がない
  4. IVC(下大静脈)が高度に虚脱
診 断

宿便性大腸閉塞

緊急で浣腸施行しましたが排便がなく,緊急CS(下部消化管内視鏡)を施行したところ固い便が栓をしており自然排便は困難と判断しました.穿孔の危険性の高い[大腸閉塞のクライテリア]は満たしていませんでしたが,腹痛が強いため,同日緊急手術を施行しました.一時的人工肛門を造設し,可及的に便を排出しました.2か月後,再手術施行し便塊摘出とストマ閉鎖を行いました.

宿便性イレウスの場合,浣腸や摘便で改善することがほとんどですが,本症例のように便の摘出が不能で口側腸管の拡張が著明の場合は手術が必要になることがあります.