6章 上部消化管(胃・十二指腸)穿孔基礎01

症 例
43歳,男性.腰痛症で1年前よりボルタレン®(ジクロフェナクナトリウム)内服中.2時間前より突然上腹部痛が出現し動けなくなり救急外来搬送.体温 36.1度.腹部全体板状硬,筋性防御あり.WBC 14000/μL,Hb 14.2g/dL,CRP 1.5mg/dL.

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (+)
①左右横隔膜 (+)
②腹壁直下 (+)
③肝下面 (+)
④盲嚢内 (-)
⑤小腸間 (-)
⑥骨盤腔 (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 (-)
③回腸領域 中等量~多量(+)
④盲腸 少量(+)
⑤下行結腸 少量(+)
⑥直腸 少量(±)

重症度判定

3) 腹水(腹腔内の広がり)
①肝周囲(右横隔膜下) (+)
②脾臓周囲(左横隔膜下) (+)
③Morison窩 (+)
④右傍結腸溝 (+)
⑤左傍結腸溝 (+)
⑥小腸間 (+)
⑦骨盤腔 (+)
4) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) (-)

原因部位の同定(特急券)

5) Dirty fat sign(問題部位近傍) 腹腔内全体(+)
6) 腸管浮腫(直接所見のことあり) 胃壁の浮腫(+)
スクリーニングの時点では気づかなくても結構です.

Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択

1.Free air(+):【穿孔系コンボ】

[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】

1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)

a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]

b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]

c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]

2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)

Step3アルゴリズムに沿って読影

[穿孔系コンボ]に沿って読影します.コンボは以下になり,順番に読影します.

1.初発の腹痛部位・採血データの確認

NSAIDs内服と上腹部痛発症,採血結果より胃・十二指腸穿孔が疑われます.

2.特異的free airを探す:網嚢内,腸管の間,骨盤腔

網嚢内,腸管の間,骨盤部位にはfree airを認めません.

3.Dirty fat signを探す

Dirty fat signは腹腔内全体に認めます.

→アルゴリズムの選択

①[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

②[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

以上より,[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]を選択します.
アルゴリズムは以下になり,順番に読影します.

1.食道から十二指腸まで腸管を全周性に追跡読影する

食道から十二指腸まで腸管を全周性に追跡読影すると,

2.壁の浮腫,肥厚を同定

小弯中心に胃壁の浮腫を認めますが,均一に造影される胃壁の肥厚は認めません.

3.同部位の腸管壁の欠損を確認:穿孔部位の同定

胃壁の浮腫を検索すると小弯側胃角部あたりに壁の欠損を認めます.

診 断

胃潰瘍穿孔

胃潰瘍穿孔は小弯側に多く認めます.胃壁の浮腫も同部位が最強になることが多いので,小弯側に注意しながら読影することがポイントです.

当日緊急手術を施行しました.胃体部前壁に1cmほどの穿孔部位を認め,穿孔部縫合閉鎖・大網被覆しました.

術後9日目の上部内視鏡では潰瘍は認めますが,穿孔部は閉鎖されており,食事を開始し,術後16日目に退院しました.