7章 小腸・大腸穿孔基礎01

症 例
71歳,男性.本日朝から3回下痢.散歩中に突然左側腹部痛出現し受診.体温 36.3度.左側腹部に圧痛を認める.筋性防御なし.WBC 18,400/μL,CRP 0mg/dL.

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (+)
①左右横隔膜 (+)左横隔膜下面
②腹壁直下 (-)
③肝下面 (-)
④盲嚢内 (-)
⑤小腸間 (-)
⑥骨盤腔 下行結腸外側(+)
下行結腸外側のfree airはスクリーニングの時点では気づかなくても問題ありません.
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 中等量(+)
③回腸領域 中等量(+)
④盲腸 少量(+)
⑤下行結腸 (-)
⑥直腸 (-)

重症度判定

3) 腹水(腹腔内の広がり)
①肝周囲(右横隔膜下) (-)
②脾臓周囲(左横隔膜下) (-)
③Morison窩 (-)
④右傍結腸溝 (-)
⑤左傍結腸溝 (+)
⑥小腸間 (-)
⑦骨盤腔 (-)
4) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) (-)

原因部位の同定(特急券)

5) Dirty fat sign(問題部位近傍) (+)
下行結腸周辺に認めます.
6) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)

Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択

1.Free air(+):【穿孔系コンボ】

[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】

1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)

a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]

b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]

c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]

2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)

本症例では,Free air(+)なので[穿孔系コンボ]を選択します.

Step3アルゴリズムに沿って読影

[穿孔系コンボ]に沿って読影します.[穿孔系コンボ]は以下になり,順番に読影します.

1.初発の腹痛部位・採血データの確認

初発部位では胃や左側結腸が疑われます.

2.特異的free airを探す:網嚢内,腸管の間,骨盤腔

左側腹部を調べると下行結腸の外側にfree airを認めます.

3.Dirty fat signを探す

同様に下行結腸の外側にdirty fat signを認めます.

→アルゴリズムの選択

①[食道・胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

②[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

以上より下行結腸の病変が疑わしいため[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]を選択します.
[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]は以下になり,順番に読影します.

1.腹痛部位やdirty fat signのある部位を中心に:腸管を全周性に追跡読影

下行結腸周辺にdirty fat signがあるので全周性に追跡読影します.

2.壁の浮腫,憩室や腫瘍があれば有力候補

下行結腸からS状結腸に憩室を認め,外側にairを含んだ膿瘍形成を認めます.

3.同部位の腸管壁の欠損を確認

腸管壁の欠損は明らかではありません.

4.腸管外の糞便の有無を確認:穿孔部位の同定

腸管外糞便は認めません.

診 断

下行結腸憩室穿孔,膿瘍形成

抗菌薬投与で軽快し,15日目に退院しました.