1章 炎症 A.急性虫垂炎応用01

症 例
40歳,女性.月経2日目だが,持続性の疼痛が昨日より続く.いつもより腹痛が強いため受診.体温 37.0度.臍部から下腹部にかけて圧痛あり.筋性防御認めず.WBC 12,800/μL,CRP 0.7mg/dL.

画像所見

子宮付属器に明らかな異常を認めません.

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 少量(+)
③回腸領域 中等量(+)
④盲腸 少量(+)
⑤下行結腸 (-)
⑥直腸 少量(+)

小腸内には下腹部に液貯留を広く認めます.Kerckringヒダは認められませんので中等度の液貯留です.また,盲腸・直腸内には便の間にわずかですが液貯留が認められます.

重症度判定

3) 腹水(腹腔内の広がり)
①肝周囲(右横隔膜下) (-)
②脾臓周囲(左横隔膜下) (-)
③Morison窩 (-)
④右傍結腸溝 (-)
⑤左傍結腸溝 (-)
⑥小腸間 (-)
⑦骨盤腔 (+)
子宮底部に少量腹水(+):女性なので生理的腹水でも矛盾しません.
4) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) (-)

原因部位の同定(特急券)

5) Dirty fat sign(問題部位近傍) (+)
右下腹部(+)
6) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)

Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択

以下アルゴリズム選択方法を記載します.
(このコンテンツでは狙い撃ち読影を行わずアルゴリズムを選択する方法で読影します)

1.Free air(+):【穿孔系コンボ】

[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]

[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]

2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】

1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)

a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]

b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]

c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]

2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)

本症例では,Free air(-)なので[腸管内液貯留コンボ]選択し,腸管内液貯留多量でないため[炎症+血流障害アルゴリズム]を選択し,最初に[炎症アルゴリズム]に沿って読影を行います.

Step3アルゴリズムに沿って読影

まずは,頻度の高い[炎症アルゴリズム]に沿って読影します.

[炎症アルゴリズム]は以下になり,順番に読影します.

1.Dirty fat sign,腸管浮腫部位の狙い撃ち読影

Dirty fat signを右下腹部に認めるので,同部位の狙い撃ち読影します.浮腫腸管がないので,腸管追跡はできません.そうなると急性虫垂炎の可能性が高くなってきます.

2.虫垂炎狙い撃ち読影は全例

右下腹部なので虫垂炎,腸間膜リンパ節炎を最初に狙い撃ち読影します.上行結腸から尾側に回盲部を確認し,さらに盲腸を追跡すると腫大した虫垂を認めます.Dirty fat signを虫垂周囲に認め,急性虫垂炎と診断します.

3.右下腹部痛は腸間膜リンパ節炎狙い撃ち読影

腸間膜リンパ節炎は認めません.

4.上腹部痛は胃・十二指腸の炎症の確認

胃・十二指腸の炎症は認めません.

5.大腸の追跡読影:大腸炎,憩室炎,虚血性腸炎

盲腸に炎症の波及を軽度認めます.

6.小腸浮腫・拡張,dirty fat signの確認:小腸炎

小腸浮腫・拡張,dirty fat signは認めません.

7.腸管閉塞・血流障害の除外

盲腸に腫瘍は認めません.

診 断

急性蜂窩織性虫垂炎

本症例は虫垂が長く臍下部まで達しています.虫垂中央に糞石を認めており,閉塞機転により穿孔のリスクが高いため緊急手術を施行しました.虫垂が長い場合は右下腹部以外で腹痛が起こることがあります.本症例も臍部に虫垂先端が達しているので,下腹部から腹部中央の痛みとなりました.右下腹部痛以外でも急性虫垂炎は考慮しなければならないということを教えてくれる症例です.