4章 小腸閉塞 C.単純性小腸閉塞基礎01
症 例
87歳,男性.お昼前に腹部違和感あり,水様下痢,腹痛が出現.症状悪化するため救急外来搬送.体温 35.4度.腹部はやや膨満しているが軟.左上腹部に圧痛を認めるが反跳痛は認めない.
Step1背景の6つの間接所見を確認
病態の絞り込み
1) | Free air(穿孔系) | (-) |
---|---|---|
2) | 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系) | |
①胃 | (-) | |
②空腸領域 | 多量(+) | |
③回腸領域 | 多量(+) | |
右下腹部回腸に小腸内糞便を認めます.回腸末端は虚脱しています. | ||
④盲腸 | 便の間に少量(+) | |
⑤下行結腸 | (-) | |
⑥直腸 | 便の間に少量(+) |
重症度判定
3) | 腹水(腹腔内の広がり) | |
---|---|---|
①肝周囲(右横隔膜下) | (-) | |
②脾臓周囲(左横隔膜下) | (-) | |
③Morison窩 | (-) | |
④右傍結腸溝 | (-) | |
⑤左傍結腸溝 | (-) | |
⑥小腸間 | (-) | |
⑦骨盤腔 | (-) | |
4) | IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) | 軽度虚脱(+) |
原因部位の同定(特急券)
5) | Dirty fat sign(問題部位近傍) | (-) |
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6) | 腸管浮腫(直接所見のことあり) | (-) |
Step27つの病態別読影アルゴリズムを選択
以下アルゴリズム選択方法を記載します.
(この教材では狙い撃ち読影を行わずアルゴリズムを選択する方法で読影します)
1.Free air(+):【穿孔系コンボ】
[胃・十二指腸穿孔アルゴリズム]
[小腸・大腸穿孔アルゴリズム]
2.胃・小腸・大腸液貯留(+):【腸管内液貯留コンボ】
1)多量:閉塞・捻転系(例外:捻転・腸重積・絞扼初期)
a) 胃→[胃・十二指腸閉塞アルゴリズム]
b) 空腸・回腸領域→[小腸閉塞アルゴリズム]
c) 盲腸・下行結腸・直腸→[大腸閉塞アルゴリズム]
2)中・少・無:炎症・血流障害系
[炎症+血流障害アルゴリズム]
(虚血腸管があれば[血流障害アルゴリズム]へショートカット)
小腸閉塞を疑う所見
以下のうち,すべての所見を認めます.
- 小腸の多量の液貯留・緊満 (+)
- 小腸内糞便 (+)
- 回腸末端が虚脱 (+)
本症例では,Free air(-)なので[腸管内液貯留コンボ]選択し,空腸・回腸領域:多量・盲腸~直腸:中等量以下のため[小腸閉塞アルゴリズム]を選択します.
Step3アルゴリズムに沿って読影
[小腸閉塞アルゴリズム]に沿って読影します.
1.外ヘルニア嵌頓の確認(鼠径部・腹壁のヘルニア嵌頓)
外ヘルニア嵌頓は認めません.
2.Whirl signの確認:小腸軸捻転
Whirl signは認めません.
3.絞扼性小腸閉塞の3徴候の確認(Gasless,腹水,腸間膜の浮腫)
絞扼性小腸閉塞の3徴候の確認(Gasless,腹水,腸間膜の浮腫)は認めません.
4.追跡腸管を選択して拡張腸管の追跡読影:絞扼性・単純性小腸閉塞・内ヘルニア
追跡する腸管の選定は,以下の腸管を用います.絞扼を疑うときは②~⑥が有用です.
- 小腸内糞便のある腸管
- 造影効果不良腸管
- 腸間膜浮腫のある腸管
- Pseudo beak signを認める部分
- 骨盤底部の腸管
- ガストログラフィン注入で造影されない腸管
骨盤底部の小腸内糞便を認める拡張腸管を選択して追跡読影をします.
左側に追跡すると閉塞しており,右側に追跡すると口側腸管とつながり単純性閉塞です.
5.閉塞腸管の壊死,口側腸管の閉塞性腸炎,穿孔の確認
閉塞腸管の壊死,口側腸管の閉塞性腸炎,穿孔は認めません.
診 断
食餌性単純性小腸閉塞
腹部手術歴がなく,昨晩にラッキョウ,魚,ご飯を摂取したとのことで,いずれかが原因で閉塞したと考えられます.
入院で絶食,補液による保存治療で改善し,7日目に退院しました.