2章 胆嚢症例1

症 例
66歳,女性.右側胸部痛
【現病歴】3日前くらいから体動時に右側胸部の痛みあり.昨日から痛みが増強して外来受診した.
体温 36.7度,右季肋部に圧痛を軽度認めた.
【既往歴,併存症】なし

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 胃内に食物が充満
②空腸領域 ごく少量(+)
③回腸領域 (-)
④盲腸 便中にごく少量(+)
⑤下行結腸 (-)
⑥直腸 (-)
3) 腹腔内出血 (-)

「病態&臓器」の絞り込み

  1. 腸管の閉塞・捻転
  2. 穿孔
  3. 腹腔内出血
  4. 腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器

④腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器を選択します

重症度判定

4) 腹水(出血)(腹腔内の広がり,出血量の評価) (-)
5) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価)
中等度 (+)

原因部位の同定(特急券)

6) Dirty fat sign(問題部位近傍) (-)
7) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)
8) 血液・血腫 (-)

Step2「読み型」を決め,アルゴリズムに沿って読影

2a. 病態単独型

①腸管単独型:腸管閉塞・捻転
②腸管優先全臓器型:穿孔→腸管を先に読む
③非腸管優先全臓器型:腹腔内出血→非腸管臓器を先に読む

2b. 病態・臓器複合型

④臨床判断型:腸管炎症・血流障害+非腸管臓器
→非腸管臓器と腸管読影の読む順番は臨床的に判断する

※特急券(dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫)があれば狙い撃ち読影
不明時は残りをルーチン読影する

本症例は2b④となります.
右季肋部痛があるため胆嚢炎などを疑い[肝胆膵コンボ+脾臓]を読影します.

[肝胆膵コンボ+脾臓アルゴリズム]は以下になります.

単純CTのため得られる情報量は少ないですが,可能な限り読影を進めます.

1.Dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫近傍の狙い撃ち読影

狙い撃ち読影はできません.

2.肝実質

①腫瘍(出血,圧排),②感染,③急性肝炎

肝実質に病変は認めません.

3.胆道系+膵管

④閉塞(結石・腫瘍),⑤感染,⑥胆道気腫

虚脱した胆嚢内に胆石を認めます(図1,黄色矢印).胆石よりも底部側の壁は軽度肥厚しています.総胆管・膵管に病変は認めません.

4.膵実質

⑦膵炎,⑧腫瘍

膵実質に病変は認めません.

5.脈管系

門脈系:⑨血栓,⑩門脈内ガス
腹腔動脈系:⑪動脈瘤,⑫出血

脈管系に病変は認めません.

6.脾臓

脾臓に病変は認めません.

その他の非腸管臓器を読影すると左卵巣嚢腫と思われる病変を認めます.
腸管には病変を認めません.

診 断

胆石症(胆石発作)

胆嚢には明らかな急性胆嚢炎所見は認めず,胆石発作でした.