1章 肝臓症例1

症 例
80歳,男性.高血圧,糖尿病で近医通院中.半月前より食欲低下あり,胃腸薬の薬を受けたが改善なく,倦怠感と右季肋部痛も出現したため当院紹介.右季肋部に圧痛を認める.
体温37.8度,WBC 23,100/μL, CRP 18mg/dL

Step1背景の6つの間接所見を確認

「病態&臓器」の絞り込みと重症度判定と(可能なら)原因部位の同定

「病態&臓器」の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
②空腸領域 (+)
③回腸領域 (+)
④盲腸 少量(+)
⑤下行結腸 (-)
⑥直腸 (-)

小腸内には下腹部に液貯留を広く認めます.Kerckringヒダは認められませんので中等度の液貯留です.また,盲腸内には便の間に液貯留が認められます.

3) 腹腔内出血 (-)

「病態&臓器」の絞り込み

  1. 腸管の閉塞・捻転
  2. 穿孔
  3. 腹腔内出血
  4. 腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器

④腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器を選択します

重症度判定

4) 腹水(出血)(腹腔内の広がり,出血量の評価)
肝周囲・脾周囲・左傍結腸・骨盤腔に少量(+):CT値10-20程度 少量(+)
5) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価)
高度に虚脱しています (+)

原因部位の同定(特急券)

6) Dirty fat sign(問題部位近傍) (-)
7) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)
8) 血液・血腫 (-)

Step2「読み型」を決め,アルゴリズムに沿って読影

2a. 病態単独型

①腸管単独型:腸管閉塞・捻転
②腸管優先全臓器型:穿孔→腸管を先に読む
③非腸管優先全臓器型:腹腔内出血→非腸管臓器を先に読む

2b. 病態・臓器複合型

④臨床判断型:腸管炎症・血流障害+非腸管臓器
→非腸管臓器と腸管読影の読む順番は臨床的に判断する

※特急券(dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫)があれば狙い撃ち読影
不明時は残りをルーチン読影する

本症例は2b④となります.
特急券(dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫)はありませんが,右季肋部痛があり肝臓の所見にもすぐ気づくと思いますので,[肝胆膵コンボ+脾臓]の読影から始めるのが妥当です.

[肝胆膵コンボ+脾臓アルゴリズム]は以下になります.

1.Dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫近傍の狙い撃ち読影

2.肝実質

①腫瘍(出血,圧排),②感染,③急性肝炎

Dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫近傍の狙い撃ち読影はできないので,肝実質:①腫瘍(出血,圧排),②感染,③急性肝炎を確認します.造影CTで肝右葉に多房性の低濃度腫瘤を認めます(図1,黄色矢印).内部均一で液体成分が充満しています.周囲実質に境界不明瞭な低濃度の浮腫所見を伴っています.

3.胆道系+膵管

④閉塞(結石・腫瘍),⑤感染,⑥胆道気腫

S3の肝内胆管が軽度拡張していますが,手前の肝嚢胞による圧排が考えられます.胆嚢に病変はありません.

4.膵実質

⑦膵炎,⑧腫瘍

膵実質に病変は認めません.

5.脈管系

門脈系:⑨血栓,⑩門脈内ガス
腹腔動脈系:⑪動脈瘤,⑫出血

脈管には病変は認めませんでした.

6.脾臓

脾臓に病変は認めません.

腸管編ではアルゴリズムの読影結果のみの記載をしておりましたが,非腸管臓器編ではその他の臓器も読影結果を記載しますので確認してください.

腹部の新しく統合されたルーチン読影順は以下でしたね.

  1. 肝胆膵コンボ+脾臓
  2. 泌尿器コンボ
  3. 生殖器(男性,女性)
  4. 血管
  5. リンパ節
  6. 骨,軟部
  7. 腸管

胸水が少量ありますが,右側優位で肝病変の反応性疑いです.その他の非腸管臓器および腸管に病変は認めません.

診 断

肝膿瘍

来院時血圧80台でIVC虚脱も高度であったので大量輸液行い,MEPM 3g/day投与に加えて,7Fr pig tailカテーテルでPTAD施行し軽快しました.膿瘍培養は陰性のため,赤痢アメーバ抗原提出しましたが陰性でした.