4章 膵臓症例1
【現病歴】昼頃より上腹部痛が出現.痛みの改善がなく救急外来へ搬送.
【既往歴,併存症】急性膵炎,胆嚢炎,糖尿病
体温 37.4度,臍上部に圧痛を認めた.
T-Bil 0.6 mg/dL,AST(GOT) 24U/L,ALT(GPT) 12U/L,WBC 7,900/μL,CRP 0.1mg/dL,P-Amy 306U/L
Step1背景の6つの間接所見を確認
病態の絞り込み
1) | Free air(穿孔系) | (-) |
---|---|---|
2) | 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系) | |
①胃 | (-) | |
前庭部は緊満していません | ||
②空腸領域 | 少量(+) | |
③回腸領域 | 少量(+) | |
④盲腸 | (-)~便中に少量(+) | |
⑤下行結腸 | (-) | |
⑥直腸 | (-) | |
3) | 腹腔内出血 | (-) |
「病態&臓器」の絞り込み
- 腸管の閉塞・捻転
- 穿孔
- 腹腔内出血
- 腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器
④腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器を選択します
重症度判定
4) | 腹水(出血)(腹腔内の広がり,出血量の評価) | (-) |
---|---|---|
5) | IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) | 軽度(-) |
原因部位の同定(特急券)
6) | Dirty fat sign(問題部位近傍) | 膵頭部周囲(+) |
---|---|---|
7) | 腸管浮腫(直接所見のことあり) | (-) |
8) | 血液・血腫 | (-) |
Step2「読み型」を決め,アルゴリズムに沿って読影
2a. 病態単独型
①腸管単独型:腸管閉塞・捻転
②腸管優先全臓器型:穿孔→腸管を先に読む
③非腸管優先全臓器型:腹腔内出血→非腸管臓器を先に読む
2b. 病態・臓器複合型
④臨床判断型:腸管炎症・血流障害+非腸管臓器
→非腸管臓器と腸管読影の読む順番は臨床的に判断する
※特急券(dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫)があれば狙い撃ち読影
不明時は残りをルーチン読影する
本症例は2b④となります.
胆嚢炎,急性膵炎の既往があることとアミラーゼの上昇があり[肝胆膵コンボ+脾臓]から読影するのが妥当です.
[肝胆膵コンボ+脾臓アルゴリズム]は以下になります.
1.Dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫近傍の狙い撃ち読影
膵頭部のdirty fat signに気づけば狙い撃ち読影を行えます.
膵腫大は,膵頭部で1椎体横径以上(約3cm),膵体尾部で 2/3 椎体横径以上(約2cm)ですが,膵頭部は膵腫大しています.造影CTで膵実質の均一化は認めません.膵造影不良域は認めず(0点)で,膵外進展度は前腎傍腔まで(0点)でGrade1です.
膵炎の局所合併症は認めません.
2.肝実質
①腫瘍(出血,圧排),②感染,③急性肝炎
肝実質に病変を認めません.
3.胆道系+膵管
④閉塞(結石・腫瘍),⑤感染,⑥胆道気腫
胆嚢腫大(長軸径>8cm)を認めますが,胆嚢壁の肥厚(>4mm)は認めません.胆嚢は腹壁に広く接していますがtensile gallbladder fundus signは認めません.動脈相で胆嚢周囲の肝実質の造影効果は認めません.総胆管は8mm以下で拡張していません.胆石を認めません.膵管に病変は認めません.
4.膵実質
⑦膵炎,⑧腫瘍
膵臓は前述した通りです.腫瘍は認めません.
5.脈管系
門脈系:⑨血栓,⑩門脈内ガス
腹腔動脈系:⑪動脈瘤,⑫出血
脈管系に病変は認めません.
6.脾臓
脾臓に病変は認めません.
その他の非腸管臓器に病変を認めません.腸管には病変を認めません.
膵頭部急性間質性浮腫性膵炎(Grade 1)
本症例は膵頭部に限局した軽症の急性膵炎です.胆嚢の腫大は急性膵炎ではなく,急性膵炎に伴う胆汁の排出低下などが影響したものと思われます.保存治療で軽快し,8日目に退院しました.
急性膵炎は膵腫大と造影CTで膵実質の均一化の評価に加えて,造影CTによる造影CT Grade分類による重症度評価,局所合併症の有無の確認を行ってください.確認するべき項目が多いですが,系統立てて診断を進めることで全体像が見えてきます.まとめると,急性膵炎で確認することは以下になります.
- 膵腫大(Haaga基準)
膵頭部で1椎体横径以上(約3cm)
膵体尾部で2/3椎体横径以上(約2cm) - 造影CTで膵実質の均一化
- 造影CTによる造影CT Grade分類スコア1)2)
- 「炎症の膵外進展度」は,前腎傍腔(0点),結腸間膜根部(1点),腎下極以遠(2点)
- 「膵の造影不良域」は,1区域(0点),2区域にかかる(1点),2区域全体かそれ以上(2点)
- 膵炎の局所合併症
- 間質性浮腫性膵炎で4週以内のものは「急性膵周囲液体貯留」,4週以降のものは「仮性膵嚢胞」に,壊死性膵炎で4週以内のものは「急性壊死性貯留」,4週以降のものは「被包化壊死」に分類し,それぞれ感染あり・なしを組み合わせる
- 血管病変(出血,血栓,仮性動脈瘤),腸管病変(炎症による腸閉塞,腸管穿孔,潰瘍,NOMI),全身への影響(臓器不全,敗血症)
- 胆石の十二指腸乳頭陥頓による胆石膵炎では胆道閉塞・胆道感染