4章 膵臓症例1

症 例
78歳,女性.上腹部痛.
【現病歴】昼頃より上腹部痛が出現.痛みの改善がなく救急外来へ搬送.
【既往歴,併存症】急性膵炎,胆嚢炎,糖尿病
体温 37.4度,臍上部に圧痛を認めた.
T-Bil 0.6 mg/dL,AST(GOT) 24U/L,ALT(GPT) 12U/L,WBC 7,900/μL,CRP 0.1mg/dL,P-Amy 306U/L

Step1背景の6つの間接所見を確認

病態の絞り込み

1) Free air(穿孔系) (-)
2) 胃・小腸・大腸の液貯留(閉塞・捻転系,炎症・血流障害系)
①胃 (-)
前庭部は緊満していません
②空腸領域 少量(+)
③回腸領域 少量(+)
④盲腸 (-)~便中に少量(+)
⑤下行結腸 (-)
⑥直腸 (-)
3) 腹腔内出血 (-)

「病態&臓器」の絞り込み

  1. 腸管の閉塞・捻転
  2. 穿孔
  3. 腹腔内出血
  4. 腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器

④腸管の炎症・血流障害系+非腸管臓器を選択します

重症度判定

4) 腹水(出血)(腹腔内の広がり,出血量の評価) (-)
5) IVC虚脱(全身への影響,脱水・輸液量の評価) 軽度(-)

原因部位の同定(特急券)

6) Dirty fat sign(問題部位近傍) 膵頭部周囲(+)
7) 腸管浮腫(直接所見のことあり) (-)
8) 血液・血腫 (-)

Step2「読み型」を決め,アルゴリズムに沿って読影

2a. 病態単独型

①腸管単独型:腸管閉塞・捻転
②腸管優先全臓器型:穿孔→腸管を先に読む
③非腸管優先全臓器型:腹腔内出血→非腸管臓器を先に読む

2b. 病態・臓器複合型

④臨床判断型:腸管炎症・血流障害+非腸管臓器
→非腸管臓器と腸管読影の読む順番は臨床的に判断する

※特急券(dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫)があれば狙い撃ち読影
不明時は残りをルーチン読影する

本症例は2b④となります.

胆嚢炎,急性膵炎の既往があることとアミラーゼの上昇があり[肝胆膵コンボ+脾臓]から読影するのが妥当です.

[肝胆膵コンボ+脾臓アルゴリズム]は以下になります.

1.Dirty fat sign,腸管浮腫,血液・血腫近傍の狙い撃ち読影

膵頭部のdirty fat signに気づけば狙い撃ち読影を行えます.
膵腫大は,膵頭部で1椎体横径以上(約3cm),膵体尾部で 2/3 椎体横径以上(約2cm)ですが,膵頭部は膵腫大しています.造影CTで膵実質の均一化は認めません.膵造影不良域は認めず(0点)で,膵外進展度は前腎傍腔まで(0点)でGrade1です.
膵炎の局所合併症は認めません.

2.肝実質

①腫瘍(出血,圧排),②感染,③急性肝炎

肝実質に病変を認めません.

3.胆道系+膵管

④閉塞(結石・腫瘍),⑤感染,⑥胆道気腫

胆嚢腫大(長軸径>8cm)を認めますが,胆嚢壁の肥厚(>4mm)は認めません.胆嚢は腹壁に広く接していますがtensile gallbladder fundus signは認めません.動脈相で胆嚢周囲の肝実質の造影効果は認めません.総胆管は8mm以下で拡張していません.胆石を認めません.膵管に病変は認めません.

4.膵実質

⑦膵炎,⑧腫瘍

膵臓は前述した通りです.腫瘍は認めません.

5.脈管系

門脈系:⑨血栓,⑩門脈内ガス
腹腔動脈系:⑪動脈瘤,⑫出血

脈管系に病変は認めません.

6.脾臓

脾臓に病変は認めません.

その他の非腸管臓器に病変を認めません.腸管には病変を認めません.

診 断

膵頭部急性間質性浮腫性膵炎(Grade 1)

本症例は膵頭部に限局した軽症の急性膵炎です.胆嚢の腫大は急性膵炎ではなく,急性膵炎に伴う胆汁の排出低下などが影響したものと思われます.保存治療で軽快し,8日目に退院しました.
急性膵炎は膵腫大と造影CTで膵実質の均一化の評価に加えて,造影CTによる造影CT Grade分類による重症度評価,局所合併症の有無の確認を行ってください.確認するべき項目が多いですが,系統立てて診断を進めることで全体像が見えてきます.まとめると,急性膵炎で確認することは以下になります.

  1. 膵腫大(Haaga基準)
    膵頭部で1椎体横径以上(約3cm)
    膵体尾部で2/3椎体横径以上(約2cm)
  2. 造影CTで膵実質の均一化
  3. 造影CTによる造影CT Grade分類スコア1)2)
    1. 「炎症の膵外進展度」は,前腎傍腔(0点),結腸間膜根部(1点),腎下極以遠(2点)
    2. 「膵の造影不良域」は,1区域(0点),2区域にかかる(1点),2区域全体かそれ以上(2点)
  4. 膵炎の局所合併症
    1. 間質性浮腫性膵炎で4週以内のものは「急性膵周囲液体貯留」,4週以降のものは「仮性膵嚢胞」に,壊死性膵炎で4週以内のものは「急性壊死性貯留」,4週以降のものは「被包化壊死」に分類し,それぞれ感染あり・なしを組み合わせる
    2. 血管病変(出血,血栓,仮性動脈瘤),腸管病変(炎症による腸閉塞,腸管穿孔,潰瘍,NOMI),全身への影響(臓器不全,敗血症)
    3. 胆石の十二指腸乳頭陥頓による胆石膵炎では胆道閉塞・胆道感染